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執筆者の写真渕上

しゃっくり

クリスマスの頃、細菌性胃腸炎にかかり食事がとれなかった。近所の医者に行くと、二日間絶食をして、その後は三分粥から始めるように言われた。

(なんてこった! クリスマスに御馳走も、ケーキも食べられないなんて!)

我が身の不運を嘆いたが、まわりに同情してくれる人などいない。

(いいさ、おいらは食い意地なんて張ってないんだ。これしきのこと何でもないや。)

自分にそう言い聞かせて、妻が美味しそうに食べるのを横目でにらみながら、お茶だけ飲んで仕事を続けていた。

そうしたところ、二日目から突然しゃっくりが出だしたのです。しゃっくりぐらいすぐ止まると思っていたが、だんだんひどくなり、起きている時にずっと出っ放しになってしまった。

「これはですね、ヒック! 少し腎臓が悪いようなので、ヒック! これから点滴をヒック!・・・」

これでは恥ずかしくて仕事にならない。昼間っから酔っぱらっているんじゃないかと誤解されそうで言い訳しながら仕事をして、いたく困った。

「先生、ヒック、しゃっくりで困っているんですがヒック・・・・」病院で相談したが

「そうですね、もう水を飲んだりしてみたんですよね、・・・しゃっくりは横隔膜のけいれんだから脱水が関係しているんでしょうかねえ・・・」

そんな会話で診察は終わり、私は近くの薬局へお腹の薬をもらいに行ったのです。

そして薬局で抗生物質など受け取っていたところ、病院から看護士さんが走って来た。

「ああ、間に合った。あのですね、先生が漢方薬の○○がしゃっくりに役に立つかもしれないから、教えてあげてと言われたのでお伝えしますね。それと、これは民間療法じゃないですが、へへへ、言いにくいんですが、割り箸を十字に組んでコップに乗せ、それで区切られた四か所から順々に飲むと、止まるかもとのことでした。」

医者からそんなことを言われ、私は一瞬キョトンとしたが、

「あっ、なるほどヒック、心理療法ですね、これはヒックありがとうございます!」

私のしゃっくりのために、わざわざ看護士さんを走らせて伝言してくれた先生の温かい心遣いに感謝した。

さて職場に戻ると、スタッフのカメ子がこう言った。

「先生、あれから私しゃっくりを調べたんですが、しゃっくりが止まらない原因の一つに脳腫瘍があるそうです。このまましゃっくりがとまらなかったら、先生はもうすぐ死にます!」

嫌なこと言うやつだなあと思ったが、彼女なりに私の事を案じて調べてくれたんだから、そういう意味では有り難い事だと思わねばならない。

「ありがとう、ヒック、死ぬかもしれないんだね。」

たったしゃっくり一つの事だが、人の思いやりを戴いた気がした。それが問題の解決にならなくても、ありがたい気持ちに変わりはないんだ。

そんなことを思い巡らした今年のクリスマスでした。

ちなみにしゃっくりは、その後五日目にご飯を食べ始めたら、途端に消失しました。つまりは飯をくれと言う胃袋の合図だったのかもしれません。

「適切な返事をすることは、その人の喜び。時宜にかなったことばは、なんと麗しいことか。」        箴言15:23

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