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執筆者の写真渕上

迷うということ 

私の職場は小さな動物病院です。ある年、動物看護学校を卒業したばかりの新人が入っ

てきました。

「タマちゃん、これをお願いするね。」

「はい、かしこまりました。」

タマちゃんは気持ちのいい返事をしてすぐに出ていくが、どの部屋に行って何を始めるのか、わかっているのか、わかっていないのか、一向に戻って来ない。心配になって様子を見に行って

「あ、違うよ! その犬は丸刈りじゃないよ、爪切りだよ。」

「え、そうでしたか!」

とか、

「ねえタマちゃん、ここに置いてた血液はどこにやった。まさか、捨ててないよね?」

「・・・・ ・・・」

「タマちゃん、わからない時は必ず聞いてね。自分で決めないで聞いてね。」

「はい、かしこまりました。」

かしこまるのはいいが、そう言った後いつもどこで何をしているのかわからなくなるので、「暴走列車」というあだ名もつけられた。

「ねえ、タマちゃん。バリバリ仕事をこなすのが良いとは限らないよ。仕事の最中に手を止めて、迷うことも大事だよ。」

「迷うことが大事ですか?」

「そう、迷うってことは、立ち止まって考えることだよ。間違ってないかどうか、過ちを防ぐために大切なことかもしれない。」

「そうですか、迷うことも大事なんですね。」

「そうなんだよ。考えてみれば僕も結婚をすぐ決めたけどね、もしかしたらもっと迷った方が良かったかもしれないな。」

「先生、お伝えした方が良いかどうか迷っていたのですが、後ろに奥さんがおいでです!」



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