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執筆者の写真渕上

野鳥のヒナ

「もしもし、野鳥のヒナが玄関先に落ちていたんです。このままでは死にそうなので、引き取ってもらえないでしょうか?」

私の職場(動物病院)には、こういう電話が多い。しかし基本的に野鳥のヒナは親鳥が近くにいるはずだから、手を出してはいけない事になっている。仮に育てようとしても生存率は低い。

「だけど、本当にちっちゃいんですよ。可哀想なので・・・。」

なおも電話の主は食い下がる。ほどなく綿にくるまれたヒナが連れて来られた。なるほど、孵化して間もないようで、薄くて透けて見えるほどの赤肌が震えている。体重はわずか9g!

「何の鳥でしょうか?」

「多分ツバメでしょう、この大きな顔が特徴です・・・。」

やむを得ず引き取ることになり酸素ケージに入れ、その日から一日6回の差し餌を始めた。

(トホホ、夜中も出勤しないといけない・・・うん!グレイの羽毛がちょっと見えるぞ。やはりツバメだな。だけど、何日生きるかなあ・・・)

悲観主義者の私は、あまり希望を持たずに差し餌を始めたが、意外と生命力が強い。一日0.5gずつ体重は増えた。

「空の鳥を見なさい。スズメの一羽でさえ、あなたがたの父の許しなしに地に落ちることはありません。」というマタイ福音書10章の言葉を思い出す。

時間になると黄色いくちばしを精一杯開けてピーピー鳴く姿は、やはり可愛い。子供の頃、家々の軒先の巣で顔を出していた子ツバメを思い出す。

「ツバメなら、秋には南の国に帰るのかなあ。ツーちゃん、早く大きくなって、仲間を見つけようね。」

おしゃれな燕尾服のツバメが、大空をスイスイ飛ぶ姿を想像した。

職場のみんなで交代に餌を与え、三日たち、四日たち、そして五日目の朝だった。

「ややっ、これは!」

出勤した私は、ヒナの姿を見て愕然とした。

小さなヒナの赤膚に、一夜にして茶色の羽が伸びていた。

「ごめん・・・君は、スズメさんだったね!」


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